YAMAKI-1200 |レストア記録

YAMAKIギター・・・、70年台当時の合板の廉価版ギターでも値段以上に良く鳴るということで、アコギマニアの中でも熱狂的なファンが居る今はなき伝説のメーカーです。


ネット上では色々な噂が往き交い、正確な情報もあれば間違った情報も混在している謎のブランドというイメージがあります。


その中でも1973年に「高級手工ギター」として作られた1200、あるいはNo.1200ともF-1200とも言われている機種は、流通している本数自体が少ないので、長いこと幻のギターと言われてきました。


私は幸か不幸か御茶ノ水で1200を購入し、辻四郎さんにフルレストアをお願いして、先日ようやく完成しました。


辻さんご自身、Chakiから独立後、ダイオンからT&Joodeeというブランド名で、日本初のハンドメイドアーチトップギターを販売していたこともあり、YAMAKIとは縁が深く、今でも大阪で辻さんのギターを扱っているショップは元YAMAKIの営業の方のショップとのことです。


修理をする過程で、色々な面白い話もお伺い出来ました。


いいギターかどうかも分からない1200をばらして、完全にレストアするという、お金も時間もかけた狂気の沙汰のレポートです。





YAMAKI-1200のファーストインプレッション

購入したのは10年ほど前、御茶ノ水の下倉楽器だったと思います。


当時まだ独身で、日本の古いアコギを現代の技術で蘇らせ、なんとか1968年製、1969年製のマーチンD-45を超えるギターを作れないかと研究していた頃でした。


関連記事「ギターオタク」


当時S.Yairiこそ日本のアコギの最高峰と信じていた私でしたが、ネットを徘徊しているとYAMAKIのギターがやたらと評判がいい・・・。


YAMAKIは70年台当時、主に関西方面で活躍していたメーカーのようで、山形出身の私には聞いたこともないブランドでした。


中古楽器屋に見に行っても、東京の楽器屋さんではあまり見かけることもなく、あっても安い廉価版のギターばかりで、せっかく試奏させてもらってもピンとくる個体に巡り合ったことはありませんでした。


そんな中、幻と言われる1200が入荷したと聞いて、喜んで御茶ノ水に行きました。


ご対面した1200、第一印象は今まで見たことのないくらい雑な作りのギターでした。


40年以上前のギターなので、多少のバインディングの剥がれは許せるし、どうせ塗装を剥がしてラッカー塗装にするつもりだったので白濁も気にしませんでしたが、それ以前に元々の工作精度が酷すぎました。


サウンドホールから手を突っ込むと、ネックブロックのあたりに何やら布なのか紙のようなものがビロビロ手に触ります。


ボディー内部は接着剤が全体的にはみ出しているし、せっかくのD-45スタイルの貝のインレイも、なんだか不細工で素人が適当に貼ったように見えます。


ブリッジも少し浮いているような気がするし、前のオーナーがサドルを削りすぎたのか、弦高が低すぎて音もビビりまくり、よく見ると指板も浮いてるような気がする・・・。


その他の印象としては、S.Yairi YD-308よりもなんだか一回り大きく、サウンドホールも大きい。


(今計ってみたら、YD-308のサウンドホールの直径は10cm、1200は10.5cmでした)


そしてやたらと重いということでした。


おそらくレスポールくらいの重さがあるのではないでしょうか。


全体をチェックすると板の割れもないし、変なキズやヘコミもついていない。


致命的なダメージはないようです。


ピックガードは鼈甲調のものに貼り替えられてるようでした。


ハカランダの木目も立派だし、状態はひどいながらも可能性を感じたので購入し、早速辻さんに修理をお願いしました。


依頼内容は

  • 塗装を剥がしてラッカーへ塗り替え
  • バインディングの貼り替え
  • ブリッジ作り変え
  • フレット打ち替え
  • サドル、ナットの交換
  • ギター内部にはみ出した接着剤の除去と清掃


これだけでも十分レストアですが、一番厄介な作業は「ギター内部にはみ出した接着剤の除去と清掃」で、そのためには裏板を外さなけれ出来ず、裏板を外すためには今あるネックを切って外し、新しいネックを作る必要があるとのこと。


裏板を外しても、戻す時に変形しないでちゃんと戻るか保証はできないし、もし裏板を戻せても、全体に巻かれている貝のインレイが駄目になるので貼り直さなければいけない・・・。


最早ギターを新しく1本作る方がよっぽど楽とのことでした。


気乗りのしない辻さんに何度も電話して、マーチンのD-45に勝ちたいこと、今の辻さんの技術でこの素人が作ったようなギターを蘇らせたいという情熱をお伝えして、


「いつまで出来るという時間の約束は出来ないけど、それでもいいならやるよ」


と仰って頂きました。


しかしその後、私の方で義母の借金問題や介護が発生し、1200は辻さんに預けっぱなしで、なんとなくうやむやのまま月日が流れていきました・・・。


実際に作業が始まったのは今年の春になってからです。





辻さんとYAMAKI

YAMAKIは謎の多いブランドですが、前述した通り辻さんと往年のYAMAKIの繋がりが深かったので、色々面白いお話をお伺いしました。


辻さんの1200の感想も、作りが雑で「とりあえずギターの形をしている物」ということでしたが、YAMAKIが倒産した理由もこの作りの雑さにあったようです。


ネット上ではダイオン、ヤマキ楽器、Joodee等々、関連会社やブランドが混在して分かりにくいですが、ダイオンはギターパーツや、楽器の輸出入をする商社のような存在で、ダイオンのアコギのブランドがYAMAKI、エレキギターのブランドがJooDeeで、独立後の辻さんの最初のアーチトップギターが、辻さんのアルファベット頭文字をとったT&JooDeeだったそうです。


その関係からYAMAKIに技術指導を請われて、何度か長野の工場に行ったことがあるとのことでした。


80年代に入ったある日、ダイオンのある大阪に呼ばれて行ってみると、アメリカに輸出したギターの不具合が多発し国際裁判にかけられそうなので、ダイオンを計画倒産するとのこと、ただそれでは辻さんにあまりに申し訳ないので、今後は東京にある関連会社の、STKコーポレーションというところで辻さんのギターを取り扱わせて欲しいと言われたそうです。


面白いですよね(笑)。


YAMAKIの元営業の方が私の1200を見る機会があって驚いていたそうです。


1200は宣伝のために当時の楽器屋さんに配られたギターで、普通に流通するギターではなく非売品だったとのことです。


「どっかの楽器屋さんが売っちゃったのかな・・・」


と、仰ってたそうです。


ぜひ直接お話をお伺いしてみたいものです(笑)。





YAMAKI-1200 レストア

今回も辻さんの生涯唯一のお弟子さんでもあるご子息から、作業工程の写真をたくさん送って頂きました。


YAMAKIはトラスロッドをギター内部にもってきた等、画期的な発明をしたメーカーとして有名で、YAMAKIのダボ継ネック工法も意味はよく分かりませんが、何か素敵なことのように思ってました。


辻さんに「もしネックを付け替えるなら、同じダボ継でお願いします」とお願いしたところ、


「それはセンスが悪いよ」


と言われてしまいました。


下の写真でもダボ継の跡が確認できますが、ダボ継は素人でも10分くらいでネックをつけられる方法で、本当のギターはマーチン同様「アリ継」でネックとボディーをつなぎ、それには熟練した技術が必要で、辻さんでも角度等の微妙な調整も含めて1時間はかかるとのこと。


この辺がYAMAKIの個性というか、「熟練した技術がなくても誰でも作れて量産できるギターを設計した」というところが、良くも悪くもYAMAKIの特徴なのかもしれません。




1200の内部の写真は、世界でも初めてではないでしょうか(笑)。


バラして確認してもらったのですが、サイド、バックは間違いなくハカランダ単板で、表板は辻さんの見立てでは、ジャーマンスプルースではないかと言うことです。


ピックガードは前のオーナーが鼈甲調ではなく本鼈甲に貼り替えたようで、そのまま使わせてもらったのでラッキーでした(笑)。


裏板を外してもらったので、せっかくだからブレーシングをいじってもらい、辻さんの爪痕を残してくださいとお願いしました。


辻さんも乗り気になってくれ、辻さんの作るアコギの特徴でもあるスキャロップにしようかなー、と思っていたところ、もともと付いていたブレーシングが細すぎて全くいじれなかったそうです。


天板、裏板共に分厚い木材が使われているのに良く鳴ると言われる理由は、この細いブレーシングにあるのかもしれませんね。


最初から音を狙ってこういう設計になっているのか、作りの雑さを見ると偶然なのか適当なのか、YAMAKIは知れば知るほど謎が深まるというか、実際に音を出してみるまで分かりません・・・。




YAMAKI-1200は恐らく日本最初期のハカランダを使ったD-45タイプで、非売品ではあるものの、1973年当時、カタログ上で20万円という値段がついた大変高価なギターでした。


ところがYAMAKIの面白いところは、立派な型番の刻印もシリアルナンバーが打ってあるわけでもなく、1200ではないかと唯一確認できるのはサウンドホールから覗くうっすらとした「1200」の不揃いなスタンプと、ボディー周囲に巻かれた貝のインレイしかありません(笑)。


スタンプの横にある変な赤い丸はなんなんでしょうね(笑)。


この辺の詰めの甘さが本当にこのギターは高級手工ギターと言われていたのかあやふやなところで、当時のヤマハやS.Yairi等とは大きく違うところです。


ブランディングや広告が本当に苦手な会社だったのかも知れません。


ご自分のブランドをお持ちの辻さんに、今更YAMAKIロゴのインレイを入れて頂くのは非常に申し訳なくて恐縮でしたが、綺麗に作っていただきました。


ただ、オリジナルの丸っこいヘッドは辻さんの美的センスが許さず、角ばったオールドマーチンタイプのヘッドになりました(笑)。


フィンガーピッキングで弾く場合、ネック幅がやや広い方が弾きやすいので、ネック幅をちょっと広くしてもらいました。





結局1200は鳴るのか?

さて、色々あった1200ですが、先日すっかり新品のようになって返ってきました。


10年前はブログを始めるなんて夢にも思ってなかったので、修理前の写真を撮ったわけでもないので、すっかりどういうギターか忘れていました(笑)。


ワクワクして弾いてみると・・・


いやー鳴りますね。


驚くほど大きな音で鳴ります。


そして倍音というのでしょうか、YD-308は音が前に出て貫通力が強いのが特徴ですが、1200は周囲全体に音が響きます。


今をときめくヘッドウエイの、100万円以上するD-45モデルを試奏したことがあるのですが、その時は新品すぎて音がこなれていなかったのか、そこまで感動しませんでしたが、明らかに1200の方が鳴ります。


日本製のアコギの音色は陰と陽で例えると陰、月と太陽で例えると月のような音色のギターが多いのですが、1200は珍しく明るい音がします。




ヴィンテージマーチンを弾くまで気づきませんでしたが、日本のアコギはなんとなく音を阻害する「栓」をしてある気がするのですが、1200はその栓が抜けているというか、栓を全く感じず音が広がっていきます。


今は梅雨の時期で湿度が高く、1年で一番アコギが鳴らない時期なのに、湿度なんて関係ないくらい良く鳴りますね。


私の手持ちのギターは音がいい意味で硬質な音色で、その硬さを土台というか、とっかかりにして弾いているのですが、1200の底の抜けたような音はもうちょっと慣れないと弾きこなせないかも知れません。


今まで私が弾いたギターの中では、1968年製、1969年製のマーチンD-45に一番近い音色がします。


何より辻さんの工作精度が素晴らしいですね。


この湿気の多い時期にチューニングもほとんど狂いません。


弦の振動をボディーに伝える辻さんに作って頂いたネックも大きな影響があるでしょうし、ボディーの内部は基本的にYAMAKIのまま・・・。


どこからどこまでが辻さんで、どこからどこまでがYAMAKIなのか分かりませんが、辻さんもどうしてこんなに鳴るか分からないそうです。


今は塗装も接着剤も新しいですが、4〜5年後にちゃんと乾ききった時により本領を発揮してくれるでしょう。


YAMAKIのギターは、設計理念もよく分からない作りも雑なギターで、ここまで分解しても謎が深まるばかりですが、いい個体に出会ってメンテをしっかりすれば驚くほどよく鳴るギターです。


世の中やってみないと分からないことばかりですが、やってみても分からないこともあるようです。


関連記事「S.Yairi YD-308 vs YAMAKI-1200」


PS
無茶なレストアを引き受けて頂いたり、作業中の写真を送って頂いた辻四郎ギター工房様、本当にありがとうございました。

改めて御礼申し上げます。


風々工房








6件のコメント

お久しぶりです。
YAMAKIのお話だったので思わずコメントしてしまいました。

私は幼少期、ピアノの習い事を速攻で挫折して以来音楽は聴く専門で
楽器はもちろんカラオケさえも行かない人間なのですが
前回お話した通り、しばらく自営業を離れている期間にこれまで自分には縁がないと思いつつ
どこか憧れていたことを思い切ってやってみようと
この程アコースティックギターを買いました。
自分と同い年のギターがいいなと思ったのと、単純にビジュアルに惚れて購入したのが
“ヤマキ YAMAKI HERITAGE イヤーシリーズ”
買ってから色々と調べて指の水膨れとか避けて通れない壁にちょっとたじろいでいます。
(職業的に指は大事なのでどうしようかと)
でも、少しずつでもいいから時間をかけてその壁を登ってみようかと思います。

なので、これからもギター話を書いていただきたいのと
マニアックなのはもちろん、初心者向けのお話もしていただけたら嬉しいなと
図々しいながらもリクエストです。

お久しぶりです!

はは(笑)、YAMAKI仲間ですね。

”YAMAKI HERITAGE イヤーシリーズ”とは、またマニアックで渋いギターですね。
割と後期のYAMAKI独自のカラーが色濃いギターだった記憶があります。
どんな音がするか興味がありますね。

アコギの鉄弦は、およそ50キロ〜70キロの力で引っ張られてるので、そこに素手である日突然素手で挑むということは、非常に体というか指にとって不自然なことです。

それを足の裏の皮くらいになるまで指の皮を育てるのですから、ある意味「靴擦れ」のような水ぶくれ、マメができてしまいますよね(笑)。

これは仰る通り「壁」です。

指が大事な職業ですか・・・、難関ですね・・・。

毎日ギターを弾いてあげて指の筋力、皮の厚みを育てるしか思いつかないです・・・。

せっかくリクエストを頂いたので、おこがましいですが初心者の方向けの記事も書いてみようと思います。

ヤマキ‼️
2度目のコメントです。

高校時代、ヤマキR-60
オール単板、グローバーペグ、ヘリンボーン、スノーフレークのモデルを弾いてました。

中学生まではヤマハのFG 130という最廉価モデルで伊勢正三のカバー頑張ってたんですが、どうしてもいいギター欲しくなり、アニキとお年玉出し合ってバーゲンでてたのを買いました。

ヤマハに比べてネックの細さ、弦高の低さに素人ながら驚きましたね。
一気に上手くなった気がしました笑

音ももちろん上品な音色でしたが、弦高の低さ故か、音量は弾き込んだヤマハの方がデカかったです。

上京時に友達に譲った記憶があるけど、今どこに行ったのかなぁ。

最近、息子の影響でまたギター弾くようになり、同モデルの再購入企んでます^_^

いつも楽しく拝見してます。
房総半島に移住検討してるので、羨ましくてたまりません。若い奥様も😅
またギターネタお願いしますね🙇‍♂️

お久しぶりです!

また渋いギターですね(笑)。

思い出のギターってありますよねー。

ギターはセッティングが大切で、仰る通り弦高が低いと弾きやすくても弦がビビったり、本来の音が出ないので難しいところです。

Jギターで見るとR-60あるようですが、悩みどころですよね(笑)。

結局神奈川西部を選びましたが、房総半島も移住の候補地で考えていました。

あまり人気のないギターネタですが、私の個人的な趣味で細々と続けたいと思います。

返信ありがとうございます。

改めてヤマキ記事を読み直し、知識、行動力と、背景にあるこだわりに感服です。

R-60入手したら報告します‼️

はは(笑)、私はただのアホです。

むしろ信さんの世代にすごい憧れを持っています。

R-60、実物を見たことがないのでどんな音がするか興味あります。

無理をなさらないで下さいね(笑)。

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