滅多にお客さんの来ない我が家の呼び鈴が鳴り、玄関先に出てみると、なにやら作業着を着たおじさんが二人。
私たちの家の道路を挟んだ隣にある雑木林を撤去して、住宅地にする工事のご挨拶とのことでした。
お話をお伺いすると、相続関係とのこと。
私たちの住んでいるエリアは空き家や空室が多いのですが、不思議と次々に工事が始まり、いつの間にか新しい家が建って入居者募集になっています。
色々な事情があるのかもしれません。
この辺りは、もともと山の中にポツポツと畑や民家が点在していた場所だったそうで、住宅街の端っこに住んでいる私たちの家から見える雑木林が、数少ない当時の景観を残す場所なのかなと想像しています。
母を亡くし、全く知り合いもいない秦野市に引っ越して来て、期待半分、心配半分だった頃、最初に迎えてくれたのが度々ブログにも登場する、この雑木林の梅の花でした。
最初にタラの芽を教えてくれたのも、この雑木林の地主のおばあちゃんで、梅の実やタラの芽を採らせて頂いたり、時々タケノコを頂いたりしました。
こちらで採れた梅の実で作った梅干しは、ちょっと小粒で種が大きかったりしますが、何しろ完全無農薬なので、毎年春先に梅干しを漬けるのが我が家の春の行事だったりします。
もちろん私たちの土地ではないので、そんなことを言う権利はないのですが、引っ越して来てから付きあわせて頂いていた友人のような雑木林がなくなるのはショックでした。
梅の花も咲き始めたばかりなのに、あの私たちを最初に迎えてくれた梅の木もなくなってしまうのかな・・・。
私たちが勝手に感傷に浸っている間、工事は予定通り始まりました。
一番最初に切り倒されたのが梅の木でした。
重機も入っているので、家全体が揺れる感じですが、観察しているとあれよあれよと見る間に木や竹が切り倒されて更地になっていきます。
さっきまで咲いていた梅の木が切り倒され、他の切り倒された木達とごっちゃになっても一生懸命咲いているのを見ていると、なんだか健気で泣けて来ます・・・。
本当にお世話になった梅の木でした・・・。
そう言えば、芽が少しづつ膨らんで来たタラノキはどうなるんだろう。
以前、テレビで山形のタラの芽の養殖を見たことがあるのですが、タラノキは強く、輪切りにしたタラの枝を流水に置いておくとタラの芽ができると番組で言っていた記憶がうっすらあります。
もしかしたら全部とはいかないまでも、一部のタラノキを救うことが出来るかもしれません!
タラノキ救出
早速ドキドキしながら工事の監督さんに聞いてみると、どうせ廃棄するから欲しいものがあったら持っていってもいいとのこと。
元雑木林の工事現場を見渡すと、昨年から可愛がっていたタラの若木の先がちょん切られています!
棘があるので真っ先に切られてしまったのでしょう。
タラノキには棘があるオスのタラと、棘のないメスのタラがあって、棘のあるオダラの方が味が良いとされています。
とりあえず、かわいそうな状態になってしまったタラの若木を、周辺の土を根っこと一緒に掘り返して庭の隅に植えてみます。
チェーンソーでバシバシ切っていた作業員の方にお願いして、タラノキの枝を程よい大きさに3本切って頂きました。
自然界のタラノキを観察していると、タラノキは上に上に伸びるので、まっすぐ生えているタラノキよりも、倒れてしまったタラノキの方が寝た状態からそれぞれの枝が上に伸びて葉付きがよく、タラの芽もたくさん採れるようです。
頂いた3本のタラノキの枝も、フェンス側に少し斜めになるように植えてみました。
小学校の時に校庭の桜の木の植え替えを見ていると、職人さんが、
「植えた後にたっぷり水をあげると根付くのが早いんだよ」
と、仰っていた記憶があるので、根っこもないただの枝のタラノキにも効果があるか分かりませんが、たっぷり水を与えてみました。
文章にすると長いですが、この間だいたい30分くらいの出来事です。
これでお世話になった雑木林の遺伝子が、細々ながらも我が家の庭に残して行くことが出来るかもしれません。
何より我が家の庭でフキノトウも育つようになってきたし、タラの芽も採れるようになったら夢が広がります(笑)。
植えてから数日経つのですが、もともと冬の枯れた状態の枝なので外見上の劇的な変化はありません。
心なし、芽の部分の膨らみが大きくなってきたような気がしますが、おそらくこれは、もともと枝に蓄えてあった栄養分で大きくなっているので、本当に我が家の土壌に定着しているのかは、夏ぐらいにならないと分かりません。
生えていたところから数メートルしか離れていないところに植えたので、環境的にはあっているのかなと期待しています。
せっかく増えた新しい家族なので、大事に見守っていきたいと思います。
タラの木は土がよければ、倒れた状態でも地下茎を伸ばしてどんどん成長します。生命力旺盛で棘がびっしりあるので私の住む所では「ヨメノシリタタキ」というチャーミング?な名前で呼ばれてます。
タラを育てている近所のおじいさんがこの名前を教えてくれ、「昔おいしいタラの芽を食べようと、おじいさんとおばあさんが大切に育てていたタラの幹を、嫁がへし折ってしまった。折られたタラの木は嫁の攻撃にも負けずしっかりと根を張り、すくすく成長、棘をまとって伸びた枝はついに、嫁のお尻をチクリと(笑)懲らしめた」という可笑しな御伽噺をニコニコしながら語ってくれました。おじいさん、この話がとても好きで、ついに息子のお嫁さん相手に実践、悪戯心とお嫁さんへのちょっとした助平心で後ろからそっと勇気を出して、棘棘の小さい幹をお嫁さんのお尻向けて突き出したところ、見事にお尻をチクリ(笑)。ずっこけ呆れるお嫁さん相手に、それでも何度か悪戯してみたくなってしまうのだとか。でも小さくて、切られても切られても強くたくましく、時にやんちゃな表情を見せる木が家族の話の中に楽しく根付いているところに、昔の人のユーモア、知恵を感じました。
ヨメノシリタタキですかー、令和の今の時代だと炎上してしまいそうな別名ですね(笑)。
おじいさんとおばあさんが大事にしていたタラの木を、お嫁さんがへし折ってタラの木にチクリと復讐される・・・。
かつての嫁姑関係や、新しく家族になったら仲良くしましょうというのが裏テーマなのかもしれませんね。
それにしてもなかなかガッツのあるお嫁さんです(笑)。
我が家のタラの木は今のところ変化が見られないのですが、根付いてくれると嬉しいです。