S.Yairi YD-308 vs YAMAKI-1200_サムネ

S.Yairi YD-308 vs YAMAKI-1200

外見で例えると、装飾の豪華なマーチンD-35のコピーがS.Yairi YD-308で、D-45のそのまんまコピーがYAMAKI-1200というところでしょうか。


マーチンD-35は3ピースバックのギターで、ギターに使われていたハカランダが、伐採しすぎて60年台末にワシントン条約で取引が禁止され、大きなハカランダの材料を使うのが難しくなり、3ピースバックのD-35が誕生したそうです。


価格で見ると2ピースバックのD-28より、小さい材料を組み合わせたD-35のほうが高価だったというのは面白いところです。


70年台に国産ギターには3ピースバックのギターが多いのですが、マーチンのように材料を節約するためではなく、恐らく3ピースバックの方がかっこいいというような、デザイン的な側面の方が大きかったのではと想像しています。


国産ギター黎明期の頃の日本でも、一応ハカランダは高級材という認識はあったようで、各ブランドの上位モデルにはハカランダ単板が使われていました。


そう言えば辻さんもChakiを辞める時に、退職金がわりにハカランダの板をもらったと仰っていました(笑)。


ただその頃の日本で、果たしてトップ材にどのくらい配慮していたかは定かではありません。


今でこそシトカスプルースだ、ジャーマンだ、アディロンだと言われていますが、70年代初期のギターカタログにはトップ材は単に「松」と言う記載が多いものです。






ボディーの形の違い


さて、YD-308と1200ですが、同じドレッドノート呼ばれるギターではあるものの、面白いことに形が違います。


写真では分かりにくいですが、YD-308が一般的なドレッドノートの形をしているのに対し、1200の方はやや四角っぽいというか、くびれが少ないように思えます。




実際にボディーのサイズを計ってみました。


ギターの形をよく女性に例えるのですが、ギターの各部分をどう呼んでいいか分からないので、くびれをウエスト、上をバスト、下をヒップと呼んでみます。


変な意味はありません(笑)。

 バストウエストヒップ全長胴の深さ①胴の深さ②
YD-30829.528.040.050.010.012.0
120030.028.039.550.510.012.0

(単位:cm)


胴の深さ①はネック側の一番胴が浅いところ、胴の深さ②はヒップ側の一番深いところです。


サイズが違ってもそれぞれ5mm程度と、見た目よりも差がありませんでしたが、YAMAKI-1200のボディーの方が、バストが大きくヒップが小さい、やや背が高いという感じでしょうか。


サウンドホールの大きさも違っていて、YD-308が直径10cmに対し、1200は直径10.5cmと、やはり5mm大きいです。


YAMAKIのドレッドノートらしからぬボディーの形状は、果たして元になったマーチンのギターを、ちゃんと採寸して作ったのか怪しいものです。


もしかしたら写真だけ見て、それっぽく作ったのかもしれません(笑)。


1973年に作られたYAMAKI-1200ですが、おおらかな時代だったのでしょう。


重さはどちらも重いですが、YAMAKIの方が若干重いかもしれません。


恐らく両方とも4キロ弱くらいはあるように思います。





音の違い|鳴るギターと響くギター



使っている材料は、両方ともトップがジャーマンスプルース単板、サイド、バックがハカランダ単板、ネックがマホガニーです。


ただ、1200のトップは、辻さんにレストアして頂いた時に「ジャーマンかもしれない」という見立てを頂いただけで、本当のところ何の木材を使っているかは分かりません。


YD-308のトップは、他でも見たことがないほど細かく目が詰まっていますが、1200は70年代当時としては珍しく木目が広いです。


ギターの音はトップに使われている材料で決まってしまうので、出来るだけ固い木材が良いとされていて、木目がよく詰まっている方が高価で良い材料と言われています。


スプルーストップで、木目が広くてもありがたがられるのは、アディロンダックくらいのものではないでしょうか。


YD-308は、とにかくこの目の詰まったトップが効いているのか、固い音が前に出ます。


内部のブレーシングは丸みを帯びたYD-308独特の形状で、スキャロップともノンスキャロップとも言い切れない感じですが、作りが良くてがっちりしています。


いかにもこの時代特有の真面目でゴツンという音が、前へ前へ出て、他のギターと一緒に弾いても音が埋もれることはありません。


70年代製のいわゆる「鳴るギター」と言われるギターと比較しても引けは取らないでしょう。


YAMAKI-1200は、レストアが終わったばかりで、10年弾き続けているYD-308と今の段階で比べるのは難しいところです。


というのも、恐らく私が手に入れた個体は数十年ケースの中に入れっぱなしで弾かれてこなかった上に、辻さんに預けっぱなしで更に10年ケースに入りっぱなし、今年になってからボディーをバラして組み直し、新しいネックを付け、塗装を剥がして塗り直したばかりなので、見た目だけではなく音もほぼ新品の状態です。


1ヶ月弾き込んでみて、既に音が少し変わってきたので、本領を発揮するとしたら、まだまだこれからのギターです。


とは言え、YAMAKI-1200は国産ギターらしからぬ、非常に特徴的な音がします。


私はギターと言うものは鳴るものだと思っていて、良いギターも「よく鳴るギター」と表現してきましたが、YAMAKI-1200は鳴るギターと言うよりも、響くギターです。


例えて言うなら、ピアノのペダルを踏みっぱなしにしたような音と言うんでしょうか。


そして音色が綺麗というより美しい。


ストロークで弾いたり、アルペジオで弾いたりしていると、幻想的な音がして、どこかに連れて行かれそうになります。


これは細いブレーシングと、木目の広いトップからくるものなのでしょうか?


YAMAKIに限っては、ギターのどの部分が、どう作用してこの音を作っているのか、皆目見当がつきません(笑)。


あと、どのポジションで、どんな弾き方をしても音が全然潰れません。


辻さんに作って頂いたネックや、組み直して頂いた工作技術もあると思うのですが、いくら強く弾いても鳴らしきっている感じが全然しません。


これはポテンシャルを全部引き出してあげるのに時間がかかりそうです。


今はライト弦が主流ですが、70年代はミディアムと言う太い弦が主流で、ギターの設計もミディアム弦を想定して設計されています。


当時上位機種だった重いギターは、買ってすぐ鳴るものではなく、何年か弾き込んで初めて本領を発揮する作りだったそうです。


YAMAKI-1200を、ある意味新品の状態から育てることができるなんて、贅沢なことかもしれません(笑)。


乾燥した冬を何回か越して、塗装や接着剤が完全に乾いて木材と一体化した時に、どんな音に育つか楽しみです。


S.Yairiの特徴は各弦の分離が良く、単音でソロを弾いたりチョーキングをする時は、唯一無二の貫通力を発揮しますが、ストロークで弾くと、ややまとまりに欠けます。


YAMAKI-1200はストロークやアルペジオで弾くと、バランスよく協調性のある音がするかわり、単音で弾いても1音1音響いて周囲に音が広がってしまうので、回りの音に埋もれやすいかもしれません。


音量は同じくらいです。


ヘッドウエイの80年製HF-420も手元にありますが、今まで試奏させて頂いギターも含めて、良質の国産ギターは音が固くて「鳴る」ものと思っていましたが、「響く」ギターと言うのは初めてです。


これからの成長が楽しみです。



関連記事「YAMAKI-1200|レストア記録」


関連記事「S.YAIRI|YD-308 カスタム」







13件のコメント

こんばんは。
洞察力、観察力、行動力、そして表現力。
素晴らしいですね!

一気読みしました。

ブログだけでは、もったいないですね。

また、ギターネタ楽しみにしております。

大絶賛ですね(笑)。
恐縮です・・・。

私たちのブログでギターネタは全く人気がありませんが、
細々と続けていきたいです(笑)。

初めまして、定年を前にもう一度ギターを初めた中嶋ともうします。偶然読まさせ頂き二度驚きコメントをしたくなりしました。一つめは、YAMAKI-F1200が実在され、販促品であったことです。二つめは、私もマーチンに負けないジャパンビンテージギター、s.ヤイリYD-306前期型(ハカランダ)とYAMAKI YM2000(ローズ)とYM1000-12(ハカランダ単板やっと探しました)を所有し最後にマーチンD42購入を目指し、弾き比べをしたく今は、s.ヤイリとYAMAKIを楽しんでます。とても、所有ギターでは敵いませんが、同じような考えで、同じようなギターを考えていたなんて、嬉しくてたまりません。是非、まだ私はギターの新参者で、かぐや姫、風、井上陽水、さだまさし等フォークを始めたばかりですが、連絡を取り合いたいです。お願いいたします‼️

初めまして!

今お持ちのギターを考えると、ちょっとやそっとのマーチンでは満足出来なさそうなので、どの年代のD-42を狙ってらっしゃるのか、非常に興味があります(笑)。

YAMAKIのギターは、ネットで色々見るものの、実物を見る機会がなかなかなく、
F-1200が初期、YM-2000とYM-1000-12を中後期とすると、作り方の進歩とか音作りの違いを比較したら面白いですね。

YD-306、YD-308も装飾を除いた基本的な使用は同じなので、価格の差を何で埋めていたのか気になります。

私は日本のフォーク世代に強い憧れを持っています。

ギター文化もそうですが、おそらく日本が一番良かった時期だと思っています。
聴く音楽はビートルズやストーンズ等の洋楽ですが(笑)。

こちらこそよろしくお願いいたします。

ご返事ありがとうございます。非常に考えが近く共感を覚えます。もう少し述べさせていただければ、私はYAMAKIとs.ヤイリのマニアになりマーチンを越えるよう考えていくことにします。他にも1970年代にかぐや姫解散し再結成した年に、アリアw80を購入し(40年間眠ったまま)k.ヤイリ000サイズのYF40とYD88もありますが、ブログを何回も読ませて頂き処分する決心がやっとつきました。本数を減らし一本に弾く時間をより多くつくるつもりです。後は、マーチンD42(2000年あたり)を退職金で購入してYD306とYM2000、1000と弾き比べてみるのが最終目標です。しかしながら本当にうらやましいです。YD308とF-1200は私も探していたギターです。探して見つからなくあきらめてたギターです。ところでマーチンD45を購入する予定はありますか?

ギターの楽しみ方も色々ありますよね。
コレクションする楽しみもあるし、好奇心は抑えられないものです(笑)。

70年代の日本の上位機種は板厚が厚く重いのが特徴で、しっかり鳴らしきるには時間がかかるし、しばらく弾いていないと寝てしまいます(鳴らなくなる)。

その分、伸び代があって引き込みで自分の音に育てていく楽しみがありますが。

私の体力的にアコギは今の2本が限界です。

それでも興味があるギターはあるし、トラベル用のパーラーギターは欲しかったりします(笑)。

>ところでマーチンD45を購入する予定はありますか?
そんな身分になってみたいです(笑)。
経済的に温度、湿度の管理も出来ないので、私には敷居が高いです。

私もD45は買えませんね。友人が所有していて、弾かせてもらいましたが、確かに世界観が違うように感じました。YAMAKIとs.ヤイリとの違いはうまく言葉では表現できません(まだ初めて二年半なのでわかるはずもありません)。
YAMAKI1200はYAMAKIマニアとして、もっとブログに紹介をお願いいたします‼️カタログやYAMAKIのサイト(何故かあるのです)にも情報がなく、色々知りたいのです。期待してます。また、房総半島に住まわれるのですか?私は千葉県市原市に住んでます。引っ越しの際はご連絡ください。ぜひ、お会いしたいです。

はは(笑)、ありがとうございます。

移住前は房総半島も候補地の一つでしたが、色々あって現在神奈川県の秦野市という所に住んでいます。

1200は所有していても謎の多いギターですが、弾いていて楽しいギターでもあります。

今のところネタ切れですが、またポチポチと上げて行くのでよろしくお願いします。

早々にご返事ありがとうございます。YAMAKIとs.ヤイリのブログ期待してます。もう毎日、何度も読み返してます。なんだか私ももっとギターに力を入れるように、また、励みになりました。私も、S.Yairi YD306 VS YAMAKI YM2000 VS まだないマーチン のブログを出したくなりました。(笑)また進展がありましたら、コメントさせてください。本当に嬉しいです。いつか幻のYAMAKI F-1200を見せてください。

先日に、昨年から修理に出していたYAMAKI-YM1000が戻ってきました。12弦でハカランダのオール単板の保証を修理いただいた工房からもらい一安心しました。実は、購入して本格的に弾くのは、初めてです。倍音がかなりあり、箱鳴りで、荒々しくギターのサウンドホール以外からも外に音がエコーがかかったように、抜けていきます。s.ヤイリYD306はハカランダですが、どちらかというと野太い、1音1音がたった比較的にメリハリのある音が連続していきます。全く違います。ちなみに、6弦で弾きますと、これが、シャリシャリして、いつまでも音が鳴り続けます。なんだか1台で2倍楽しめるギターです。YAMAKIのYM-2000とも比較しましたが、どちらかというと綺麗でうっとりする音色です。こんなに素材やメーカー、機種でちがうのかと思いました。と、ともに、そろそろマーチンと比較したくなる衝動が押さえられなくなってます。D-42ではなく、D-28か35あたりを手にいれて、比べたいです。最後にYAMAKIとヤイリの新しいブログを期待してます。

お、奇遇ですね、ちょうどギターの新記事をアップしたところです(笑)。

YAMAKI-YM1000修理完了おめでとうございます。

>購入して本格的に弾くのは、初めてです。

分かります(笑)。
私もYAMAKI-1200をちゃんと弾けるコンディションにするのに5年かかりました。

私の経済力ではとてもマーチンと比較出来る境遇ではありませんが、どの年代のマーチンを手にされるのか非常に興味があります。
お手持ちのギターを拝見すると、近年物のマーチンでは満足できないかもしれませんね(笑)。

またぽちぽちと更新していくので、よろしくお願いします。

Don’t bother with the Martins unless, they are relatively old and well played, and cheap, which of course they never are. Against a good S or K Yairi, don’t bother. Different yes but unless you have someone to play the Martin while you play your S. Yairi say, gathering the two sounds together, is to my mind the only reason to have a Martin. I sold my D-45 for two Yairi’s. I still have a S.Yairi YD 307 which is fifty years old in September ’25. Totally different from the delicate D-45 and Yairi 3000 – which is, I think a better sound than the D-45 and much better made and half the price. I have just sold my K. Yairi YW 3000 and a Hiroshi Yairi 108, both were/are lovely guitars with sweet sounds. I sold them to buy another YAiri but the man who owns it has just put-up the price by £1,500.00. So, I will look for something else. The only Guitar I wish I still had, because of the great sound, is a Martin D-18, which was made in 1936. This guitar was stolen from me in 1980. Your Yamaki is very interesting. We rarely see such items in the UK.

Hi There!
surprise, surprise never expected comment from UK and very happy to know there are Yairi and Yamaki lover.
sorry for your lost of D-18 1936.
My experience D-45 was not any D-45 but it was 1968 or 1969 D45 and was really different from other guitars including other Martin.
thanks million to contact us!

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