「竜馬がゆく」と自然薯
本や漫画を読んでいて、「これ食べたいなー」と思うことはよくある話です。
私は司馬遼太郎の「竜馬がゆく」という本が好きで、とくに海外に留学していて苦しい時は何度も読み返しては励まされたものでした。
その中で、竜馬がふらっと山に行き、立派な自然薯を10本くらいを手にさげて戻ってきては、源おんちゃんの小屋に徳利1本と自然薯を1本を放り込んでいき、
おんちゃんは、これをなますに刻んで、にんにくと一緒にかじりながら焼酎を飲む。
ずいぶん酒の味が違うらしい。「竜馬がゆく」単行本第2巻P213より引用
という下りがあります。
いやー、これは是非食べてみたくなりますよね(笑)。
この天然の自然薯、あるいは山芋(基本的に同じものらしいです)は、掘るのが大変で、掘り起こすのにかかる時間と人件費を考えると、とても割りに合わないので、基本的に市場に出回ることは少なく、稀に市場に出回っても非常に高価だそうです。
成長するのも1年で10センチ位と遅く、収穫できる大きさになるまで10年〜20年と、気の遠くなるような時間がかかるとのこと。
これは敷居が高いというか、望んで手に入るものでもないし、なんとなく頭の片隅でうっすらと憧れていました。
先日、パンチさんの所にお邪魔してレンコン掘りを体験させて頂いていた時のこと、突如パンチさんがあさっての方を向いて、
「ん・・・、アレうまそうだな・・・」
と、仰います。
「アレ」と言われても、何が美味しそうなのか分からず、聞いてみると山芋のツルをみて「うまそう」とのことでした。
指をさされても、どのツルのことを仰っているか分からず、そばまで連れて行って頂くと、なるほど、ツルが木に巻き付いています。
パンチさんの裏庭というか、裏山というか、あちこちに山芋が自生しているそうで、たまに時間がある時掘っているそうです。
「商売にすると割りに合わないから、自分で食べる用だよ」
と、仰ってました。
ハート型の葉っぱが枯れ落ちた秋から冬にかけた、ちょうど今の時期が旬とのこと。
これは興奮します(笑)。
早速おねだりして、翌日掘りに行かせてもらいました。
自然薯掘り
翌朝、早起きしてパンチさんの所にお伺いすると、準備をしながら色々なお話をしてくださいました。
自然薯にはよく似た偽物があるそうで、どちらもハート型の葉っぱをしているので葉の形で見分けるのは難しいですが、右巻きのツルが自然薯で、左巻きのツルが偽物とのこと。
今回は時期的に葉っぱが枯れてしまったので、ハート型の葉っぱを写真でお見せすることはできませんが、葉っぱやツルが枯れてしまっても後からどこを掘ったら良いか分かるように、めぼしい自然薯のツルの根元に米粒を撒いておくそうです。
「地面の中の自然薯は見えないのに、どうやって採り頃かどうか判断するんですか?」
と、お伺いすると、ツルの太さで見分けるとのこと。
ツルが太ければ太いほど、自然薯も大きいそうです。
そんな面白いお話をお伺いしているうちに、竹やぶの中に太いツルを発見しました。
「竹の根っこの層の下まではオレが掘ってやるよ」
と、パンチさんが途中途中竹の根っこをのこぎりで切りながら掘り進み、「ようやくこれからだ!」という所で残念ながら水が出てしまって、1箇所目は残念ながら中止になりました。
自然薯を掘った後の穴は、ちゃんと埋め戻すのが礼儀だそうです。
「本当は、あんな竹やぶじゃなくって、斜面の方が片側だけ掘ればいいから一番楽なんだよねー」
なんて話してるうちに、早速斜面に自然薯のツルを発見です。
先ほどのツルより細めで、
「あと4〜5年くらい待った方が本当はいいかもね」
と、仰りつつ、どんどんツルを辿って掘る準備をしています。
自然薯はダイヤモンドのように貴重なものと思っていましたが、この辺りには本当にあちこちに生えているようです。
あちこちに生えてると言っても、自分の山を持っていないと掘れませんが(笑)。
ほとんどパンチさんが掘ってくれて申し訳なかったのですが、自家製の細長いシャベルでワッシワッシと掘り進んでいくきます。
時折手で自然薯の位置を確認しながら、傷つきやすい自然薯に直接触らないよう周りの土を掻いていくと、粘土層に突き当たりました。
硬い粘土層を避けるように、予想していた位置よりも曲がって生えてるとのこと。
後ろから拝見していると、完全に自然の山肌を掘り進めているので、木の根っこはあるし、雑草、野草の根っこはあるし、畑ではないので石は出てくるは粘土層じゃなくても土は硬いは、ちょっとした重労働です。
確かに天然掘りの自然薯に値段をつけようと思っても、難しいかもしれません。
貴重な自然薯は非常に傷つきやすく、折れやすいので、最後の掘り出すところは本当は竹で掘るといいそうです。
ほとんど自然薯の姿形が見えて最後の掘り出すところだけ、是非掘ってみたいと言っていた嫁に代わってもらいました。
丁寧に丁寧に手で土を掻き出して自然薯を掘り出していきます。
実際に掘ったことはありませんが、この辺は化石掘りに似ているのかもしれません。
一部残念ながら折れてしまいましたが、細長い、いかにも自然の中に根を下ろしたような、所々節くれだった自然薯を掘り出すことが出来ました!
レンコンもそうでしたが、傷つきやすい自然薯はタワシでこすらずに、高圧洗浄と言うんでしょうか?、洗車するときに使うような水を勢いよく出す器具で泥を飛ばして、シャーッと洗います。
これは普通の家庭では難しいかもしれません。
パンチさん宅にお伺いしてから1時間〜1時間半くらいでしょうか、ありがたく採れた自然薯を頂いて帰りました。
天然自然薯でとろろご飯
さて、憧れの天然自然薯です(笑)。
源おんちゃん流になますに刻んで、にんにくと一緒にかじってみたかったのですが、採れた自然薯の大きさを考えて、とろろご飯にしました。
まず自然薯のヒゲをコンロで焼いてすりおろします。
スーパーで購入する長芋や大和芋と比べても粘り気が強く、摩り下ろしたそばからおろし器にひっついてしまい、お箸でこそげおとしながらじゃないと摩り下ろせないくらいです。
今まですり鉢を使ったことはありませんでしたが、なるほど、これだけ粘りが強いとすり鉢で摩った方がやりやすそうです。
磨り終わった自然薯はむしろ固形物と言っていいほど固くコシがあり、お箸で掴むとつきたてのお餅のようにビョーンと伸びます。
鰹節、昆布、お味噌でダシを作り、自然薯と1:1くらいの分量を入れてかきまぜます。
普通、山芋とダシを混ぜると素直に混ざるものですが、天然の自然薯は水分を弾くくらい元気がありすぎてなかなかきれいに混ざってくれません。
ちょっと自然薯のダマは残ってしまいましたが、卵の黄身を入れてとろろの完成です。
以前、静岡出身の友人に、
「とろろはご飯が泳ぐくらいかけないと、とろろって言わないよ」
言われたことがあったので、とろろはご飯が泳ぐくらいたっぷりかけました。
ざざっとお箸でかきこんで食べてみると・・・。
うん、甘いです。
まず最初に甘さがきて、もぐもぐ噛んでみても甘いし、後味も甘いです。
なんと言うか、コクのある甘さと言うか、自然薯自体にコシも残っていて食べ応えもあるし、普段食べている山芋の延長線上にはあるのですが、甘みと食感が違います。
天然だから土臭かったり、何か野生的な風味がするわけでもなく、むしろ上品でクセがなく、普通に美味しいです。
あっという間に食べてしまいました(笑)。
食べた後の満腹感も普段以上だったので、もし次に食べる機会があれば、もう少しご飯の量を減らした方がいいかもしれません。
パンチさん、今回も本当にありがとうございました。
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