ある程度年齢を重ねたギター弾きには、誰しも「上がりのギター」と言うものがあるものです。


若い頃に憧れた「あのギター」や、好きなギタリストが弾いているギター等々、みなさんそれぞれストーリーがあるのではないでしょうか。


独身時代ならまだしも、家庭を持っても「上がりのギター」を追いかけてしまい、嫁から、


「これで最後って言ったでしょ!?いつまでたっても上がらないじゃない!」


と、怒られてしまうのも、ギター弾きを抱えてしまった家庭にはよくある光景かもしれません・・・。


既製品もいいのですが、日本の職人さんに生涯で一度くらい自分だけのためのギターをオーダーしてみたいと言うのが私の夢でした。


予算があるわけではないので、ギターを注文するとしたら誰にしようか、どんなギターをどう言う仕様にするか等々、くよくよ考えながら想像するだけで楽しいものです(笑)。


国産ギターの沼にどっぷり浸かった私が、色々突き詰めて辿り着いたのが、昭和の香りを色濃く残した日本の個人ルシアー(ルシアー=ギター製作家)の草分け、辻四郎さんでした。


S.Yairi製のLowden L-34、Headway HF-420、YAMAKI F-1200の修理でお世話になりましたが、仕上がりも素晴らしいし、是非ギターを作ってもらいたいとお話をしているうちに義母の問題が発生して10年くらい棚上げになっています。


※現在S.Yairi YD-308の修理を依頼中


辻さんはアーチトップもフラットトップも作られるのですが、せっかく辻さんにお願いするならアーチトップ、それも辻さんの代名詞とも言えるD’angelico(以下ディアンジェリコ)のニューヨーカータイプがいいなと思っていました。


ディアンジェリコ・・・、普通の人は聞きなれない言葉かもしれませんが、伝説的なアメリカのギタールシアーの方で、現在でも著名なルシアーはたくさんいらっしゃいますが、そのルシアーの中でも「ザ・ルシアー」と尊敬されている方です。


ディアンジェリコ(1932年-1964年 59歳没)本人の作ったギターはアーチトップギターのストラディバリウスとも言われ、今でも稀に中古相場に出回り、数百万円で取引されています。


私もいわゆる普通のアコギ(フラットトップ)しか知らなかったので、辻さんを知るまではディアンジェリコなんて聞いたこともありませんでした。


辻さんが1973年に茶木から独立して、日本で初めて単板削り出しで作ったギターがこのディアンジェリコモデルで、当時誰も知らなかったディアンジェリコのコピーモデルを作るなんて、よっぽどディアンジェリコの作りや音に思い入れがあったのかなと想像していましたが、実は辻さんご本人も当時ディアンジェリコを知っていたわけではなく、何かの写真を見て、てっきりギブソンのカスタムか何かと思って参考にしたそうです(笑)。


下の動画は、ディアンジェリコ本人の作ったニューヨーカーモデルです。


再生する際は音が出るので気をつけて下さい。




この動画、ずるいと言うか、ギターも素晴らしいのですが弾いているおじいちゃんもいい味すぎて、正確にこのギターを判断するのは難しいです(笑)。


こちらのギターはピックアップが最初からついていないタイプなので生音なのですが、決して強く弾いている訳ではないのに音量もあるし、艶と色気があると言うか、素晴らしい音色ですよね。


私、ギブソン運がないと言うか、L-5も含めて何本かギブソンの古いアーチトップギターを弾いたことがあるのですが、強引に「味」と言ってしまえば味なのかもしれませんが、古い壊れたラジオが遠くから聞こえてくるような音で、これはいいなというアーチトップギターに出会ったことがありません。


恐らく辻さんは作ったギターの本数の数倍以上修理もされている方で、アーチトップではギブソン、ディアンジェリコ、ダキスト(ディアンジェリコのお弟子さん)等々、それは古今東西、新旧のギターを直接手に触れている方なのですが、その辻さんも、ディアンジェリコは音、作りとも当たり外れがなく別格だと仰ってました。


さて、今年2本のギター(HF-420、Antar)の処分も完了し、いよいよ辻さんに発注しようかなと思っています。


予算が少ないので、自分で用意できる部品はなるべく自分で用意して少しでもコストを抑えようと、ケントアームストロングの手巻きのピックアップをアメリカに直接発注したり、GOTOHの糸巻きやステンレス製のフレット等々、自分好みの部品を集めてはいるのですが、ディアンジェリコスタイルのテールピースは最大の難関でした。


辻さんのニューヨーカーモデルは基本エボニー製のテールピースで、お願いすればオプション扱いで、真鍮の板から削り出しでディアンジェリコスタイルの金属製のテールピースを作ってくれます。


金属の板からの削り出しは大変な労力で、オプション代も結構するのですが、残念ながらヒンジの部分までは再現出来ず、一度ギターに装着したら固定されてしまい、テールピースに隠れたギターの部分は磨けません。


木目フェチの私は弦を交換する時にギターを磨くのが大好きなので、そこの部分だけ磨けないのはちょっと辛いです。


現在ディアンジェリコのブランド名とライセンス契約しているのが日本の会社で、今でも新品のディアンジェリコのギターは日本でも販売されているので、代理店に電話をしてテールピースだけ融通して頂けないか相談したところ、ライセンス契約で揉めて日本ではもう作れなくなったけど、たまたま工場にテールピースが1個残っているとのことでした。


「これは!」と思って話を進めてみると、ダイキャスト(亜鉛合金)製でヒンジの部分がない固定式とのこと。


ライセンスのことはよく分かりませんが、アメリカにもディアンジェリコを扱っている日本とは別の会社があるので問い合わせてみると、非常に丁寧な返信はあったのですが、個人との取引は出来ないし、出来たとしても日本には配送できないとのこと。


ブラスバンドと言うくらい管楽器にはブラス(真鍮)が使われているので、真鍮は音の伝導性がいいのか音楽と相性がいいように思えるので、ダイキャストは嫌だし、テールピースの下が磨けないのも辛いし、どうしたもんかと悩んでいる時に、アメリカのコレクターの放出品を見つけました。






アメリカのコレクターの放出品

コレクター放出のテイルピース

コレクター放出のテイルピース



ギターに装着しないと何の意味もないテールピースを、どうしてこんなに集めていたのかは分かりませんが、ディアンジェリコのオリジナルのテールピースで、一度も使われたことのない新古品とのことでした。


当時、ニューヨークにあったディアンジェリコの工房近くのマンハッタンにあった、「Joseph Schaffner Co.」と言う会社で作られていたものだそうです。


アール・デコ調のデザインやエンパイアステートビル等をギターの装飾に取り入れた彼のギターは、当時のニューヨークの空気感を取り入れた非常に都会的なギターだったようです。


オリジナルなので、もちろん真鍮製です。


ニューヨーカータイプとエクセルタイプ、17インチと18インチと装着するギターの大きさで種類が違うのも初めて知りました。


こんな機会はないし、ギリギリ出せる金額まで交渉して17インチ、ニューヨーカータイプのテールピースを譲ってもらいました。






ディアンジェリコ 17インチ ニューヨーカーテールピース



購入手続きから2週間ほどで届きました。


梱包を解いて見てみると、思ったより巨大ですねー。


ヒンジの部分から測っても、20センチ以上あってずっしり重いです。


試しに重さを計ってみると241.6グラムです。


あれほどこだわっていたヒンジも、若干キコキコいいますが、スムーズにパタパタ開きます。


後はギターを発注するだけなのですが、このテールピースに見合うディアンジェリコ・ニューヨーカータイプを発注するとなると、私の予算では無理かもしれません・・・。


辻さんのアーチトップの場合、12mm厚の板を一旦機械でプレスしてから加工する場合と、25mm厚の板を最初から最後まで手で削って加工する単板削り出しがあるのですが、当然単板削り出しの方が材料費も手間もかかります。


サイド、バック、ネック材のメープルも、音にどれくらい影響があるのか分かりませんが、オリジナルのディアンジェリコに近づけてトラ目のフレームメープルを選ぶと別に材料費がかかるし、ましてやトップ材をディフォルトのシトカスプルースから他のイングルマンやジャーマンに変更しても別途オプション扱いとなり、金額が一桁以上変わってきます。


ん〜、そうなってくると現実的に見て、可能性は低いですが、「これだ!」と思えるギターを中古市場で待つのも一つの選択肢になりそうです。


こうやってクヨクヨしている時期が一番楽しいのですが、せっかく縁あって手元に来た希少なテールピースを、ただの高価な壁飾りで終わらせないよう色々考えなきゃです。







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風々工房(ぷぷこうぼう) 東京出身のププ(嫁)、山形出身の旦那夫婦でインスタ漫画を描いています。 借金のあったププ母の介護、非正規雇用など色々乗り越えて、2018年に秦野市に移住しました。 社会の歯車から離れて、はたして生きていけるのか実験中です(笑)。 もしよろしければ、これまでのストーリーのインスタ漫画もご覧ください。